壁の広告

Cさんからメール。

4月の初め、トラブルもあって結局買うことになってしまった新しい車で無性に遠出がしたくなり、静岡まで走った揚句、A一家を呼び出してしまったのだが、その時の写真を送った返事のメールだった。

突然の連絡にもかかわらず、娘のSチャンにも会うことができ、楽しいひと時を過ごさせてもらった。

僕の方はどちらかといえば上手くいかないことが重なって、気晴らしも兼ねた遠出だったのだが、とても歓迎してもらっていささか申し訳ない気分。。




今朝はとても天気が良く、昼前に家を出て、外で仕事。
日差しがとても気持ちがいい。

Tさんの論文だが、そろそろ投稿できそう。

大学に行き続きを読んで、すこし一段落したので、久しぶりにゆったりとした気分で古いCDを集めたCDショップと本屋に立ち寄る。

テレサ・テンのベスト盤と桂枝雀の本を買った。

このところレトロなものばかりに興味があるのだ。

どちらも惜しまれて亡くなった才能ある人たちである。



2月にとある場所で一般向けに研究の話をする機会があり、そこですこし桂枝雀のことを話題にした。

直前に見たTVの特集で、この才能ある落語家が生命の進化を題材にした落語を作っていることを知ったからだ。

自分が今まさに関わっているホットなテーマが、もう10年以上も前にこの落語家によってすでに取り上げられていたことは、改めてちょっとした驚きだった。

今思えば随分昔、その落語を聞いた覚えがあった。
多分当時はただ面白がって聞いていただけだったのだろう。


テレサ・テンはその声の透明感と切なさがたまらなく好きである。
時々TVで特集をやるのだが、何度となく引き込まれてしまう。

CDショップの特売コーナーで目に留まって、結局買うことになった。


前回買ったCDは、最近出たばかりの石川さゆり椎名林檎のコラボレーションだったが、これも言ってみればレトロのようなもの。



先日、連休の休みを大阪で過ごした後、横浜へ帰る途中に時間をもてあまして、3年前に新しくなった大阪駅のショッピングモールで時間を潰していた。

ぶらぶらしているうちに、絵画の特設会場に目がとまった。

入り口付近に懐かしい絵が掲げてあった。
佐伯祐三の絵のリトグラフである。

良く見ると絵のオークションをやっているのだ。

これはと思って中に入ると、一番目立つスタンドにやはり佐伯祐三の別の絵が掲げてあった。

原画をもとにしたフランス人によるリトグラフだったが、ほとんど何も考えることなく、問われるままに値を入れた。

多分ほんとにその絵を手に入れたければ、それなりの金額を書いたのだろう。

でもほとんど迷わず、指定された最低金額を書き込んだ。

誰も希望しないのなら僕がもらおうという発想だ。

もしそれでも自分に落札されれば、結局この絵を誰も希望していなかったということなので、できればそうはあってほしくないという気持ちがあったのだ。
今はむしろ知らない人がほとんどかもしれないが、僕にとって佐伯祐三は大切な画家である。



今週初め、そのデパートから封書が届いた。

開けてみると、「希望された絵はあなたに落札されました」という内容がそこに書かれていた。

正直なところ複雑な気持ちである。
念のためと確認したが、それぞれの作品に関して一つしか仕入れておらず、僕しか入札しなかったということだ。


30にして亡くなったこの作家は、わずか4年間のパリの滞在で400点もの絵を描いたという。

僕が特に好きな作品はパリの街角の広告の絵で、同様な多くの作品が残されているが、それらの絵の中のパリの裏街の街角に貼られた広告は、当時のパリの活気やこの作家の溢れるような情熱を見事なばかりに映し出していた。

乱れたようにも見える一つ一つの線が、ほんとに絶妙のバランスで描かれている。


結局自分の手に入ることになって改めて気付いた。


結構大きな絵なのだが、もう絵を掛ける壁が、うちにはほとんどなかったのだ。。