年初めに続いた大きな災害に比べたら大したことではないとしか言えないが、個人的にも年末から残念な出来事が相次いだ。
ようやく前を向き始めたころ、wifeと仕事で長く親交のある自分の古い先輩から懐かしいメールを受け取った。
その先輩とは大学院生のころ、何度か映画や演劇を見に行ったことがあった。
当時所属していた研究室は、学生が僕一人ということもあったが、早めにラボを出ることも憚られる、息が詰まるような研究室だった。
その研究室で研究室の先生や助手の目を気にしながら、少し早めに研究室を出て、河原町や岡崎公園周辺まで何度か出かけて映画や演劇を見た。
その先輩から、僕に転送してほしいとwifeに託したメールには、ビクトル・エリセの映画のことが長々と書かれていた。
別の映画を見に行った折に何十年かぶりにビクトル・エリセの最新作が上映されることを知り、その言いようのない感動を誰かに伝えたく、いてもたってもおれずに、古い記憶から、一緒にビクトル・エリセの映画を見たと思われる僕にメールを書いたのだ。
すぐにでも返事をしようかと思ったが、その中で自分がその先輩と見た映画がどれだったか思い出せないと書かれていたので、それを確かめたく、wifeに頼んでなかなか手を付けることも難しい仕事部屋の本棚の周辺をかたずけてもらい、その本棚の中にある映画のパンフレットを引っ張り出し、ビクトル・エリセのパンフレットがあるかどうか探した。
パンフレットはその中からあっさり見つけることができた。
今日ようやくその先輩に返事のメールを書いた。
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Mさん
ご無沙汰しています。
お返事差し上げるのが、ずいぶん遅くなってしまいました。
メールをいただいて学生時代のことを懐かしく思い出しました。
メールをいただいた時、確かにMさんとビクトル・エリセの映画を見たようなかすかな記憶はあったのですが、どちらの映画を見たのか全く思い出せず、先日wifeの部屋を片付けてもらって、部屋の奥の本棚にしまい込んでいた映画のパンフレットを引っ張り出しました。
その中からすぐ見つかったのがエル・スールのパンフレットでした。
正直僕は長らく、自分の趣味に基づいた映画鑑賞を封印していたので、エル・スールの内容はほとんど忘れていました。
むしろ「ミツバチのささやき」についてはタイトルをもちろん長く記憶していたので、最初はミツバチのささやきを一緒に見に行ったんじゃないかと思ったぐらいです。
僕は自分が見た映画に関しては必ずパンフレットを買うのでミツバチのささやきに関しては映画館で見たことはないと思います。
そのパンフレットを見て改めて面白く感じたのは、パンフレットの冒頭に武満徹と蓮實重彦の対談が乗っていることでした。
当時の僕は大江健三郎つながりから武満徹についてもとても興味があったので、その対談の言葉をワクワクしながら読んだことを思い出しました。
昨年大江健三郎と山田太一という、自分が青年時代に心の糧としていた2人の作家を失ったことをとても残念に思っていました。
こういった話をすることができるのは高校時代以来の友人で良き数学者でもある親友とMさんぐらいで、その親友の方はお互い忙しくあまり会う機会もないので、Mさんからメールを貰ってとても嬉しく思っています。
残念ながら僕は先にも書いたように自分の趣味に基づく読書や映画鑑賞を長らく封印しているので、あまりまとまった知識もありませんが、またこういった話をさせていただけると嬉しいです。
ビクトル・エリセの最新作、楽しみですね。
定年後も新しい仕事に一喜一憂の毎日で、あまり時間も取れない日々が続いているのですが、
久しぶりに僕もこういった映画を見に行きたいと思っています。
それでは、またぜひ一緒に食事でもしましょう。
関東に出てこられる機会があったらご連絡ください。
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メールの最後に急いでとったパンフレットの写真を張り付けた。
当時から僕が映画に行くときの楽しみの一つがパンフレットを買うことだった。
元々wifeからメールを転送してもらった時、すぐに返事をかけなかったのは、パンフレットの束を探せば、必ず何かわかるだろうと思ったからだ。
確かにビクトル・エリセのパンフレットはそこにあった。
年末に長い友人のOと他の友達たちと会って話をしているときに、たわいもないみんなとの会話の中でその友人がポツリと、昨年は、大江健三郎も山田太一もなくなってしまった、と言ったことを傍ではっきりと聞いていた。
その言葉に僕は特にリアクッションはしなかったが、変わらないその一言に深い共感を感じたことを思い出した。
ビクトル・エリセの最新作は僕も見に行こうと思う。
まずはどこで上演されるのかから調べることになりそうだけど。。