画材店

8時ごろ目覚める。

先日Oさんに貸してもらった、矢野顕子のCDを聴きながら食事。

10時半に家を出、Yさん夫妻からもらったグルノーブルの航空写真を入れるためのフレームが出来上がっているので、綱島の画材店に取りに行く。

wifeを途中の駅で降ろして、ナビの修理を依頼していたカーディーラーに向かう。

帰宅途中に、先日大原美術館から送ってもらった佐伯祐三の絵のことを思い出した。

リビングに佐伯祐三の絵を2枚かけてあるのだが、どちらも色あせてしまって、できれば新しいものと交換したいと思っていた。

同じ絵を売っている場所は限られているのだが、以前佐伯祐三のポスターを買った大原美術館のサイトを検索すると、ミュージアムショップに置いてある作品がネットでも購入できることがわかった。

そこで、2枚あるうちの1枚は同じ絵を大原美術館に送ってもらったのだ。F6号のキャンバスで3,600円なのでネットで手に入るなら悪くない値段である。

自宅に戻って、送ってもらったばかりの絵を持ち出し、もう一度画材店に向かう。

もっと近くにも画材店はあるかもしれないが、この店が気に行っていた。

このマンションに引っ越してきた直後のことなのでもう10年ぐらい前になると思うが、今掛けている2枚の絵にあう額縁を探しにこの画材店に来たことがある。

これに合うものをと持っていたポスターを見せると、対応してくれた店の主人と思しき女性が、佐伯祐三の絵であることにすぐに気付いて、
「わぁ、私この絵大好きなのよ」
と至極自然に、感嘆の言葉をつぶやいた。

その言葉は必ずしも僕に発した風でもなく、その自然なつぶやきが心に残っていた。

グルノーブルの航空写真を額に入れること、そのためにここに来ること、を勧めたのはどちらもwifeだったが、僕も他の場所はあまり思いつかなかったし、佐伯祐三の絵を入れる額縁を買うならここだろうと勝手に思っていた。


大原美術館から送ってもらったキャンバスを抱えてもう一度店に入ると、その女性は、さっき引き渡したばかりの写真用のフレームに何か問題があったと思ったのだろう、すこし不思議そうな顔をして「何かありましたか」と切り出したが、僕はそれには答えず、「この絵に適当な額縁をほしいんですが。。」と言った。

紙袋から絵を取り出すと、その女性は案の定、すぐに佐伯祐三の絵と気付いたようで、絵の裏側にあった説明書きを見て「ああやっぱり佐伯祐三ね。」と呟き、
今度は僕に向かってはっきりと「私佐伯祐三が好きなんです。」
と言った。

僕はよっぽど「良く知ってますよ」と答えようかと思ったが、なんだか照れくさく、
「僕も佐伯祐三が大好きなんです」
と言葉を返した。

最初に出してくれた額縁は悪くはなかったが、特に良いとも思わなかった。

これはどうですか、と出してくれた2つめの額縁は、なかなかよさそうな額で、どう見てもさっきの額よりは高価に見えた。

その額に絵を入れると、その額は、まるでこの絵にはこれしかないと思えるほど、見事に絵と調和した。

恐る恐る値段を聞くと、案の定一万円を超えていた。

別の額を出してもらったが、もう比較にはならなかった。

もう一度、さっきの額縁を出してもらい、スタンドに立ててもらってしばらく眺めた。

「この額は絵を選ぶのよ。安っぽい絵だと絵が負けてしまう。」
「やっぱり佐伯祐三ね。絵が全然負けないでしょ。」

そうですね、と僕も相槌を打った。
僕は、どちらかというと普段は、商品の説明を素直には聞けない方なのだが。。

この額は、この絵のためにあるようにしか思えなかった。
もうその額から絵を取り出すのは無理だと思った。

もともと関西出身の僕は、こんな時にそのままの金額を支払うのはできない性分だ。

もう少し安くなりませんか?

と、いつも電気店なんかで交渉する時に比べて少しぎこちなく切り出した。
こんなところで値切ることがちょっと憚られたからだ。

その店主はちょっと考えて、計算機を取り出し、「XXXXでどうですか?」

と思っていたよりも随分安い値段を示してくれた。

ここまでくればもう買うしかチョイスはなかった。

早速家に戻って、グルノーブルの写真とその絵の2枚をリビングに飾った。



この冬一番の買い物である。

見慣れたリビングが、今日少しだけ綺麗になった。