2度と来ないチャンス

今週の会議で研究科へ戻ることが決まり、ちょうど静岡に住むNチャンが来る機会に合わせて
長く開ける機会のなかった、Jにもらったワインを開けることにした。

1998年のフランス行き以来16年の間、開けることのできなかったワインである。

「何かいいことがあった時にこのワインを飲め」というJの言葉の呪縛で、自分にとっていい時を決められず気が付いたら16年の月日が流れていた。



何度か飲むチャンスはあったと思う。

今の場所に着任した時は一つのチャンスだったかもしれないが、そこに至るいきさつから、ボトルを開けることはできなかった。

Hさんの論文の時に開けてもよかったかもしれないが、アクセプトに至った経緯から開けることを躊躇った。



研究室を分けることになった今回の異動が本当によかったかどうかはこれから次第だが、いい加減ワインを開けて次のステップに進もうと考えたのがワインを開ける気になった大きな理由だ。



16年開けなかったワインだから、さすがにwifeからはいつ開けるのかと何度も言われていた。

ようやく開けることになって、wifeもチーズや前菜を用意してくれ、僕もいつになく緊張してすっかり古くなったワインを取り出した。


ところがである。。



ワインオープナーをいくら回しても、全くコルクが持ち上がらない。

コルクがボトルにこびりつき、動かなくなっていた。。

仕方なくコルクの粉が中に入らないよう慎重にスクリューを抜き、できる限りコルクを削り取って、やっとの思いでこじ開けた穴から、ワインをグラスに注いだ。。


グラスに注いだワインを恐る恐る口に注いだ瞬間、「ああ、ダメだったか。。」と思い、ため息をついた。


ワインはすでにビネガーになっていた。

wifeも一口、口に含み

「ショック。。」と声に出した。


16年前、グルノーブルのJの家で、MFと娘のRと一緒に初めて食事をした時、Jが食卓に出してくれたワインだった。

プロバンス地方の珍しいワインで、とても香りがよく、一口飲んだだけで好きになった。

このワインがおいしいとJに言うと、

Jが地下のセラーから同じワインを持ってきて僕に差出し、その一言を言ったのだ。

あの時の味をもう一度と、ずっと思いながら飲めずにいたのは間違いだったかもしれない。


今思えばワインをもらった直後の数年間、冷蔵庫に入れたり暑い夏を台所のカウンターに放置したりして、かなりワインには過酷な状態で放置しておいたことが良くなかったのだろう。。

もらった直後にすぐ飲めばよかったのだ。


仕方なく、このワインをあきらめ、Mにもらった2009年産のワインを取り出して乾杯をした。。
ボジョレーに10ある名高い村でMの家族が作った2009年産(当たり年)のワインだから、これも格別のワインだったが、Mには悪いがどこか寂しい思いはなかなか消えなかった。



でもこれでサッパリした。


一番いい時などという幻想を捨てて次を頑張れというエールなのだ。

Jが言った言葉が何気ない一言だったことは自分が一番承知していたはずである。


新しい場所へ移ることは、僕にとってもSさんにとっても新たな始まりである。

このリセットが、本当の意味で2つの研究室の次への飛躍につながると信じている。