学会でフランスに出る2週間ほど前、TVの番組表を見ていて、ある番組の再放送がふと目についた。
主人公の父と娘が京都で開業する「思い出の料理を再現する」という料理屋のドラマで、ファンタジックなストーリーではあるが、そこに出てくる京都の少し寂れた感じの料理屋の雰囲気と、父と娘の配役がとても気に入っていて、3年ほど前に放送された当時、何となく引き込まれて毎回見ていた。
父親役だった萩原健一が亡くなったことで再放送されたのだろう。
2週ほど続けて録画しながら再放送を見て、改めてその独特の空気に引き込まれた。
生憎最終回放送時はフランスにいることもあって、録画予約をして旅に出ることにした。
今回向かったマルセイユはフランスの南を代表する都市で、プロバンスの一角にあるが、20年前に半年ほどグルノーブルにいたころは、少し治安が悪いと聞いていたこともあって何とはなく足が向かず、一度も行ったことがなかった。
今年、2年に一度ヨーロッパで開かれている会議をマルセイユにいるYがオーガナイズすることになり、僕にも声をかけてくれたので、一度も訪ねていなかった場所でもあり、2つ返事でOKした。
声をかけてくれた半年ほど前からマルセイユ行きをずっと楽しみにしていたが、今回の旅ではもう一つひそかに期待していたことがあった。
それはもう20年以上前、Jにもらっておきながら、味わうことのできなかったワインを探すことだった。
http://tetsujinn28.hatenablog.com/entry/20140923
1998年、5か月ほど滞在することになったフランスで、滞在先のラボのボスだったJが、僕を自宅での夕食に招待してくれることになった。
ワイン好きのJは、その時食事の席で1本のワインを開けてくれたのだが、当時の僕はワインなどほとんど飲んだことはなかったにもかかわらず、そのワインをとても美味しいと感じた。
僕があんまり何度も美味しいというので、Jは地下のワインセラーから同じワインをもう一本取ってきて僕に差し出し、
「お前が何かいいことがあった時に飲め」
と言ってくれたのだ。
日本に持ってかえったそのワインは、僕がワインを飲むタイミングのハードルを上げすぎたことでなかなか飲むチャンスに巡り合えず、当時はワインセラーもなかったことで保存状態が悪くて、結局15年もたったのちに思い切って開けた時には酢になっていた。
残念だったが、そのワインがプロバンスのワインだったことをはっきりと覚えていて、今回このチャンスに探したいと考えていた。
一緒にフランスに来たSさんや、N君の発表が終わった学会初日の夜、N君がYの夫でもあるFに紹介してもらったレストランに行き、先の北海道でも出会ったIさんやその奥さんも一緒に食事をしたのだが、その店で2本ほどワインを開けた後、ワインリストをぱらぱらとめくっているうちにそのワインが店に置いてあることに気づいた。。。
もうすでに5人で2本もワインを開けていたので、今更さらに注文するわけにもいかず、その場は諦め、僕の発表が終わる最後の日の晩にもう一度この店に来ることにした。
今回はNさんの成果を発表する予定で、自分の発表がある最終日の前日まで、いつも通り朝早めに起きて準備をしていた。発表前日、ちょうどセッションが終わった時、メールを見ていたSさんからNさんの論文がアクセプトされたとの知らせ。
気分よくその日のバンケットに臨んだのだが、バンケットでポーランドのグループと一緒になって調子よく飲みすぎ、フランスについてからずっと重い食事を繰り返していたこともあってかお腹を壊してしまった。。
その日の夜は遅くまでうんうん唸って、少し準備の最後の詰めが足りず、発表そのものはもう一つの印象だったが、それでもNさんの成果は内容としては十分で、それなりの宣伝はできたかと思う。
学会が終わり、Sさんとマルセイユにある名跡の一つロンシャン宮殿に行き、しばらく周辺を散策。
その後、お土産などを見るためにすこし離れた場所のショッピングモールに足を延ばす。
早速ワインショップを見つけてそこに入った。
ホテル近くのスーパーでもすでに見つけていたのだが、Jに貰ったワインが置いてあった。
早速購入することに。
せっかくなので店主にこのワインはどう?と聞いてみたら、
「マルセイユで一番のワイン!」とのこと。
それを聞いただけでも、もう十分な気持ちになった。
20年前ワインをほとんどまともに飲んだことのなかった僕にワイン好きのJが出してくれたワインがどんなワインだったのか、ずっと気になっていたのだ。
でも、そんな話をすると、Sさんが、
「いくら同じのを探したって同じものは2度と飲めませんよ。収穫時期もエイジもぜんぜん違うんだから。」
そういわれるのも仕方がない。。
酢になってしまったそのワインはもう2度と戻らない。。
その晩、Sさんと先のレストランにもう一度訪れた。
待ち合わせていたI夫婦と合流。
料理は軽めにして、早速そのワインをオーダーする。
グルナッシュメインの赤で、とても香りがよい。
飲んだワインは2015年で比較的エイジが浅かった。
20年前にもらったものはすでに7年ほど熟成したものだったので、多分Jが楽しみにとってあったものだったのだろう。
食事とともにワインを飲みながら、フランスに出る前に見ていたTVドラマのことを思い出した。
そう、これこそ思い出の料理の再現である。
先のショップではこのワインを研究室と家用に2本買っていた。
買った2本のワインも2015年産だったので、一本は取っておいて20年前に飲んだように7年ほど経った2022年ごろに飲もうと思う。
あと3年である。
その時、何かそれに相応しい、「とても良いこと」があるとなおさら嬉しいのだけれど。